法曹界きってのアントレプレナーが語る起業家に必要な”素養”とは 弁護士ドットコム 元榮太一郎会長(第1話)

インタビュー|2017.11.14

いつかインターネットで弁護士を探す時代が来る。”一見さんお断り”がまだ当たり前だった今から12年前にそんな夢を描き、「弁護士ドットコム」を創業した元榮太一郎(もとえ たいちろう)氏。法律事務所の代表、上場企業会長でありながら現参議院議員という3つのキャリアを持つ元榮氏に起業家としての心構えやベンチャー企業の事業・組織について聞いた。(全6話)

純度100%の「前向きさ」「素直さ」「粘り強さ」が事業の成功確率を高める

──今でこそ起業する弁護士が増えてきていますが、元榮さんが起業された当時は弁護士が起業することは非常に珍しいことだったと思います。元榮さんが弁護士ドットコムを創業されたきっかけについて教えてください。

そうですね。12年前に弁護士ドットコムを創業しましたが、当時、弁護士で起業する人はゼロ。弁護士は弁護士として巷の法律相談や裁判、企業法務だけを手掛けるのが当然のことだと思われていました。ですから、起業した時も「会社を起業するなんて前代未聞だ…」と他の弁護士には驚かれました(笑)。

しかし、当時から司法制度改革により法曹人口は年々増加していて、私は近い将来弁護士の健全な競争が進む時代になるのではないかと感じていたんです。今までは、「弁護士は弁護士として働くべきだ」という時代でしたが、「これから全然違う弁護士の時代が来る……」。そう感じていました。

実際に海外では弁護士が起業することは一般的になっていましたし、自分の心の声に従って事業をスタートしてみようと思いました。元榮太一郎(もとえたいちろう) 弁護士ドットコム株式会社 代表取締役会長

1975年 米国イリノイ州生まれ。2001年弁護士登録。現アンダーソン・毛利・友常法律事務所で勤務後、2005年法律事務所オーセンスを設立。同年法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」を創業。2014年に弁護士として初の東証マザーズ上場を成し遂げ、2016年参議院議員選挙(千葉県選挙区)にて当選し現参議院議員。

──先駆的なお立場でいらっしゃったので、ご苦労もあったかと思います。そんな状況を打破するのにも必要な起業家にとって重要な素養を3つ挙げるとすればどのようなものでしょうか。

とても基本的なことですが、「前向きさ」「素直さ」「粘り強さ」の3つが重要ですね。

これは、起業にかかわらずどんなことでも達成できる3つの条件だと思っています。

私自身、弁護士になるときも、起業するときも、2016年に国政に進出(千葉県選挙区から自民党公認候補として立候補し、初当選)するときも、この3つを徹底することだけを考えていました。

そうしていると、どんな苦労に直面しても自然と道が拓け、乗り越えることができたんです。

──「前向きさ」「素直さ」「粘り強さ」の3素養が、何事においても重要だと考えるに至った理由を教えてください。まずは「前向きさ」からお聞かせください。

私自身が、人生を「前向きさ」で乗り越えてきた経験が多くあったのです。

例えば、学生時代のサッカー、大学受験もそうでした。司法試験や起業へのチャレンジもそう。

これまで「前向き」であることで、能力を最大限に発揮してこられたのです。

中には、とても優秀なのに事業に失敗してしまう方もいます。これは、「前向きさ」が足りなかったという点もあるのではないでしょうか。

事業をしていれば、誰しもが壁にはぶつかります。時には、心が折れることもあるでしょう。そんな時にこそ、格好悪い自分も丸ごと受け入れて、「前向きさ」を持てるかどうかが鍵となるのです。

「天は自ら助くる者を助く」と言われるように、己を信じて己を保ち続けた人が、自身の能力を最大限に発揮することができ、目標を達成できるのでしょう。

──続いて、「素直さ」についてはいかがでしょうか?

「素直さ」は、自分の置かれている状況や能力、知識を素直に受け入れるという意味で重要です。

起業したての頃は右も左もわからないものです。そんな時に、素直に教えを乞えるかどうか。これは、スタートアップだけでなく、いつ何時でも重要ですね。

様々な人の話を聞くことで、よいところを吸収していけると思います。

自分の知らないということを正直に認め、年上でも、年下でも、お客様からでも、社員からでも、言い訳をせずに、教えを乞う。そして、素直に耳を傾ける。

まさに「聞くは一時の恥。聞かぬは一生の恥」です。

その場では、教えている方は気分がよく、教わっている方はお礼を言う立場になりますが、結果的に教えは自身の血肉になり、自分をどんどん成長させていくことができる絶好の機会のはずです。

一方で「素直さ」がない人は、こうした自分の成長の機会を逸しているわけです。だからこそ、「素直さ」を持つ人は強くなれるのだと考えています。

──では、最後に「粘り強さ」について教えてください。

弁護士ドットコムは、創業から8期連続赤字でした。事業をスタートした当初は、一見さんお断りが当たり前の弁護士業界において、弁護士がインターネットで検索され、相談者と気軽につながることへの抵抗感は大変強いものだったからです。

そんな状況を打破できたのは、「絶対に社会に役立つサービスだ」と信じて続けられた「粘り強さ」があったからです。

どんなに信じてもらえなくてもくじけることなく、一人ひとりの弁護士の先生に粘り強く弁護士ドットコムの必要性を伝えていきました。

「司法試験合格者数がこれだけ増え、時代は変わっています。困っている人がインターネット上ではこんなにいるんです。どうかお力を貸してください」と、社会的な変化と時代のニーズについて説き続けたんです。

草の根的なこうした粘りが、「こんなに一生懸命やっているのだから力になってやろう」と弁護士の先生方の心を少しずつ動かしていったのだと思います。

地動説を唱えたガリレオ・ガリレイは、多くの人が天動説を信じていた当時においては大きな反発や批判を受けましたが、それを正しいと信じ、伝え続けました。そして今ではどうでしょう? 地動説が世の中の常識になっています。

私も当時の常識では考えにくかったこのサービスが、「絶対に社会に役立つサービスになる」と考えていたので、粘り強く説明していくことができたのだと思います。

スティーブ・ジョブズも「優秀な人はたくさんいるけれど、成功する人としない人の最大の違いは粘り強さにある」と言っています。

私は、逆境に立たされても、この言葉に背中を押され頑張り続けることができました。

「前向き」「素直さ」「粘り強さ」のこの3つに隙があってはいけません。

人は苦しいとき弱気になったり、格好良く見せようと「素直さ」を忘れてしまったりするものです。

しかし、そんなわずかな弱さが綻びにつながってしまう。

この3要素を一切の隙なく純度100%にしていくことができれば、事業の成功確度がおのずと高まっていくのです。

自らとの対話をしつこく続ける中から見えてくる志

──「前向きさ」「素直さ」「粘り強さ」の3要素を、隙を生まずに持ち続けるポイントやコツはありますか?

短期的には、規則正しい睡眠をとることですね。

疲れていると、人はだいたい弱気になります。寝て起きてみると、「意外とたいしたことはなかったな」と気持ちが晴れることは少なくありません。

しかし中には、長期的に厳しい状況が続くこともあります。

弁護士ドットコムの8期連続赤字は、当然のことながら寝たところで黒字になるわけではありませんでした(笑)。

そういうときは、「ピンチはチャンスだ」と考えるようにしていましたね。そう考えられるのは、やはり「志」や「ミッション」があったからだと思います。

自分自身と対話をして、「それはたしかにやるべきだ。絶対にやりたい。」と強く思うことができれば、逆境に立ち向かいながらも「ピンチはチャンスだ」と考える強さを持ち続けることができます。

さらにいうと、順風満帆で成功するよりも、山あり谷ありの方が、物語性があっておもしろいものです。

「私も辛いときがあった。でも、今はここまでこれた。だから、いま辛い人も頑張ると良いことがある」とエピソードを語ることができますよね。

私もピンチの時には「神様は、きっと自分に後人が共感してくれるような物語を与えてくれたんだ」と自分に言い聞かせていました。

どんなにピンチでも自分の考え方を貫くことができたのは、「本当にやりたいことをやっている」からだと思います。

「大してやりたくないこと」「どちらでもいいようなこと」をやっている場合には、逆境や厳しい状況に至ったときに、「前向きさ」「素直さ」「粘り強さ」を維持し続けていくことは難しいでしょう。

だからこそ、掲げる目標を洗練させて、「本当に自分がやりたいことなのか」を見極めていくことが重要です。起業を志される方は、ポイントポイントで自分との対話を心がけていただきたいですね。

第2話「アンテナは常に高く自分の心に素直であれ」に続く(11月下旬公開予定)

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筆者 下平 将人

筆者 下平 将人

一橋大学法学部卒業、慶応義塾大学法科大学院修了。東京弁護士会所属弁護士。Arts&Law 無料法律相談担当。 都内法律事務所、LINEの社内弁護士・新規事業開発を経て、DIに参加。DIでは、ベンチャー投資、投資先の事業戦略策定・成長支援を中心に取り組む。

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