ギターの弾き語りで身につけた仮説思考力 SHOWROOM 前田裕二社長(第2話)

「思いやり」こそ成長の母

――他者への想像力、仮説思考の力とはどういうことでしょうか?

他者への想像力は、もっと身近な言葉で言えば、思いやりと言い換えることもできるでしょう。サービスやプロダクトをつくる上でも、チームビルディングをする上でも、どれだけ相手を思いやるか、つまり、相手の目線に立って想像力を働かせられるかが、最重要だと思います。これは簡単そうで、できている人が多くない。自戒も込めて、この要素をあえて挙げたいです。

仮説思考の力というのは、PDCAを回す中でついていきます。仮説のないアクションは悪であって、1個1個の行動に、その時点での最善仮説を持てているかを強く意識しています。

 

――どうやってそうした能力を身につけられたのですか?

小学6年の頃、親戚にもらったアコースティックギターを片手に、駅前で弾き語りを始めました。

最初は1か月毎日やっても月に500円に満たない身入りでしたが、その後、仮説、アクション、そして改善に次ぐ改善をかさね、最終的には10万円以上のお金がギターケースに入るようになりました。CAGR半端なかったなと笑。それだけものすごい数のPDCAが回ったということですが、その過程でこうした能力を身につけていったのだと思います。

最初はオリジナル曲の方が付加価値が高いと思ってそればかりやっていたのですが、足を止めてくれる人はいませんでした。ただ、自分には、これによって食いぶちを得たいという、強烈なモチベーションがありました。お腹も減っていましたし、そんな精神的・肉体的苦しさから解放されるために、他者への想像力を自然と働かせるようになりました。

まず当時の僕がやったことは、道行く人が自分をどう見ているかを想像してみることでした。他者を動かしたいからこそ、「他者の目」を持とう、と思いました。

冷静に見つめてみると、決して小綺麗な格好はしていないし、そもそも相手が絶対に知らない謎のオリジナル曲を弾いているから、「この子に話しかけたら、CD買ってくれとか投げ銭しろとか言われそうだなー」って思われているだろうなと。

ならば、その警戒心を解くために、まずはカバー曲に切り替えました。知っている曲の方が、人の警戒心を外しながらも、注意や関心を引けると思ったからです。

これが、僕が他者への想像力を前提に考えた仮説思考で起こした初めてのアクションだったと思います。すると明らかに歩留まりが違った。そのことが面白くて。次々にPDCAを回していったのです。

次に立てた仮説は、道行く人が「おや?」と思うような「つっこみどころ」を何らか作れば、自分のコミュニケーション範囲まで人が入ってくる確率が上がるであろう、ということでした。

そこで看板にその日歌う予定のセットリストを書くことに決めました。「吉幾三」とか「村下孝蔵」といった、明らかに少年が歌っていたらおかしい曲を書いてみたんですね。そうしたところ、コミュニケーション範囲に来てくれるどころか、「なんで吉幾三なんて知ってるの?」と、お客さんから話しかけてくれる回数を飛躍的に増やすことに成功しました。

歌そのものではなく、コンテクストが感動をもたらす

ここで、また次のハードルが、立ちはだかります。通行人が立ち止まり、話しかける。ここまでは来ました。しかし、肝心な、「ギターケースにお金を入れてもらう」というハードルはなかなか超えられなかった。

そこで、浅く広く歌っていてもキリがないので、狭くても良いので深く誰かの心にぶっ刺さりする歌を歌わねば、ということで、ターゲットを絞ることにしました。例えば、マダムにターゲットを絞って、若かりし頃にはまったであろう、松田聖子さんの曲を歌っていたりもしました。この、どのオーディエンスに向けて歌っているのか、ということを都度明確に決めて歌う手法で、たくさん話しかけてもらったり、特にはリクエストをもらえたり、それなりに成果を上げることができました。しかしある日、リクエストに応えてすぐに歌ってしまっても、投げ銭してもらえるところまで到達しないことに気が付きました。

そこでまた、相手の立場に立って考えてみたんですね。プロや本人のクオリティレベルからほど遠い僕が歌う松田聖子自体に価値はない。聞き手にとって、自分ごとになっていない。もともとやっていた、リクエストに答えて、「その人のためだけに歌う」というのは、多分、方向性としてはいけている。しかし、もっと、only for you感を増すためにはどうしたら良いか。そこで思いついたのが、「リクエストを受けても絶対に歌わない」作戦。どんな曲をリクエストされても知らないふりをして、「えっ、白い…なんですか?」とか言ってメモしながら、「白いパラソルですね。絶対覚えてくるんで、1週間後の同じ時間にもう一回ここに来てくれますか」と伝えるんです。歌や演奏のうまさで感動させるのではなくて、その人のためだけに一定の時間をかけて本気で努力をしたという、歌の裏側にあるコンテクストやストーリーで感動をもたらせないか。そう考えました。

そうすると、1週間後に実際に歌ったときには、もはや歌のうまさとかは聞いていないわけですね。「1週間、どうやって練習したんだろう」「私のためにどれくらい練習してきてくれたんだろう」と、僕の演奏を、自分事として考えてくれるようになります。そうやって感情移入のレベルを上げていきます。

こんな経験を経て、課題にぶつかった時、つまり相手が自分の思うように動いてくれなかった時には、相手の目になる癖がつきました。何が嫌で、何が嬉しいのか。徹底的に考え抜くようになりました。

 

「他者への想像力」に富んだ最強のチーム

――SHOWROOMにはそうした考え方ができる人が揃っている?

嬉しい話があって、最近、特にSHOWROOMのメンバーって本当に思いやりがあるんだなって思わされることがあって。お客様や業界の方々から、言われるんですよ。

たまたま何かの会食で同席した、SHOWROOMを使っていただいているある人から、うちの担当者に対してどれだけ感謝しているかって熱い思いを2時間くらい語られて。

例えば、あるオーディションを企画した社員について。実際にSHOWROOMで実施したのは、その会社のあるドリンクのイメージガールを選ぼうっていうオーディションだったんですけど、「オーディションがどうすればうまくいくかってことだけじゃなくて、どうやったらそのドリンクのことを世間にもっと知ってもらえるかを誰より高い熱量で考えてくれたりして、毎日電話で話したりもして。うちの社員ですか? って思うくらいに親身に考えてくれて。なんであんなにうちのことを考えてくれるのかが不思議でしょうがない。今後あの人に何かあっても、絶対支えたいと思います!」みたいなことをすごく語られて。

その話を聞いた僕としても「あ、これは自分が褒められるより嬉しい」というレベルで、すごく嬉しかったです。自分が褒められるより嬉しいことって、あるんだなと。

 

――さっき起業家に必要な素養として「他者への想像力」を挙げてもらいましたけど、メンバーにもそういう頭を働かせながら仕事をしている人がいるってことですよね。それがSHOWROOMの強さの本質である、と。

本当にそこなんですよね。もちろん社内でも言い争いというか、お互いがある種の利害関係をぶつけている時も当然あるんですけど、それはそれで信頼関係を作るためには必要な作業だと思うんで、必要な時は、どんどんぶつかればよいと思っています。

ぶつかった後で、お互いの腹の底が分かって、本当の意味での相手に対する想像力が持てるなら、それはいいと思ってます。神様じゃないんだから、いきなりパッて相手に対して想像力を持てるなんて、そんなことなくて。ぶつかったりとか、お互いいいところを見合ったりとか、いろんな経験を通じて、その人と同じ皮膚感覚で、同じ目線が持てるようになっていくものだと思うんです。

そういう経験をしてきているからこそ、僕は「今日のインタビューは秋元さんでやってくれ」って言われたら、いますぐにでも秋元さん(康氏)モードにもなれるような気がします。守安(功氏。DeNA代表取締役社長)モードや、南場(智子氏。同会長)モードもあります笑。彼らだったらこう言うだろう、というプロトコルを、自分にインストールすることができるというか。他者への想像力、コミュニケーションというものを突き詰めてやっていくと、その人が自分に憑依したようなレベルで、気持ちが理解できるようになっていくと思います。

 

――どうやってそういうメンバーを揃えることができたのでしょうか?

もともと、そういった思いやり素養のある人を採用しているからというのが大きいのかなと思います。元々は採用時に、スキルと人間性を5:5、あるいはスキルを上に見ていたのが、今は、かなり人間性に比重を置いた形で見てますね。人間的に裏切らないかとか、信頼できるかとかいうのを。

以前、小学校2年からの同級生を採用したんです。僕の小学校からの同級生だから、スキル面はなんとなく想像ついていました。僕も含めてですが、そこまで賢い地域や学校の出身ではなかったので、そこはあまり実は期待していなかったのです。それでもなんで彼を採ったかといえば、SHOWROOMのビジョンに対する共感度がものすごく高かったのと、彼の人間性については、僕のお墨付きだったからです。

彼はもともと0歳から俳優をやってて、28歳になった時に俳優で食っていけなかったら支える側に回ろうって自分で決めていたそうなんです。そんな時にたまたま僕のFacebookのポストを見たらしいんですけど、「事務所に入って普通に俳優のサポートをすると2、3人程度しか助けられないけれど、SHOWROOMに入れば、もしかしたら自分はすごい数の、”夢はあるんだけれどもどうやったらいいかわからない”って人たちに、無限にチャンスを与えられるんじゃないか」って思ったと言ってくれて。

人間性については、僕が小学校2年生の時ってすごい闇を抱えていて、「近づいてきたら殺す」みたいな感じだったんですけど。笑

そんな僕に対しても「前ちゃーん」とか近づいてきて遊びに誘うような、そういうやつだったんですね。という彼だから、人間的にはめっちゃ信頼していて。それで大手を振って採用したわけなんです。

その彼が今、目をみはるほどの高いパフォーマンスを上げてるんですよ。他のメンバーもびっくりして「バックグラウンドなんなんですか?」って思うくらいに。俳優だから、プレゼン中に急に、AさんにもBさんにもなりきっちゃうんですよ。こないだもある大手レコード会社の役員会みたいなところで、50人とかいる前で彼がプレゼンして、スタンディングオベーションみたいになってましたし。

それくらい成長しているわけなんですけど、それは彼のスキルとかじゃないですよね。熱量や思いの強さが圧倒的なんです。僕の言った本とかも全てすぐ読んでくれるし、最初にうちに入ってきた時なんかは、トイレにも立たないんですよ。「僕は会社に対して全く貢献していないから、トイレに行く時間も申し訳ないです」って。

それはおかしいから行けよって話なんですけど、それくらいSHOWROOMでバリュー出したいとか、僕の顔に泥を塗れないとか、強い思いで、頑張ってくれている。

こんな感じで、それぞれがなんで入ってきたかとか、入った後どうだったかという「ストーリー」を話せるメンバーばっかりで。エピソードベースで僕が嬉々として語れるメンバーばっかりなんですよね。

 

 

>第3話「秋元康がパートナーに求めた2つの要素とは?」に続く

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著者 小縣 拓馬

著者 小縣 拓馬

起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。     ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~

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