Bean to Barチョコレートで活かす「日本の究極の資源」 Minimal(株式会社βace) 山下貴嗣代表(第3話)

新たなスタイルのチョコレート「Bean to Bar」専門ブランドの先駆けとして脚光を浴びている「Minimal -Bean to Bar Chocolate-」。全くの門外漢だった株式会社βace 代表取締役・山下貴嗣氏が2014年に立ち上げたブランドながら、世界的なチョコレート品評会で日本初の金賞を受賞している。短期間で商品のクオリティだけでなく、一流ブランドを作り上げた山下氏にブランド作りの秘訣や組織づくりについて伺った。(全6話)

生産者・製造者・お客様、「三方良し」のエコシステムを作る

──改めて、御社の事業について教えてください。

我々は「Bean to Bar」というチョコレートの新しい製造スタイルをとっている専門店です。

普通のチョコレートは、基本的に2ステップで皆さんのお手元に届いています。

まず、一次加工メーカーが安く大量にカカオを仕入れてきて、大きな工場で効率的にチョコレートの生地を作る。

次に、この生地を、お菓子メーカーやショコラティエが購入し、バターや香料、ミルクを足してデコレーションしてお客様に届けていく。

しかし、「Bean to Bar」はこの2ステップを一気通貫してやります。自分達で豆を買い付けるところから、チョコレートにしてお客様に届けるところまで自社で扱っているんです。

──「『チョコレートそのもの』ではなく『チョコレート体験』を届けたい」とおっしゃっているのが印象深いです。

我々のビジョンは「チョコレートを新しくする」というものなんですが、これはつまり「新しいチョコレート体験をお客様に届けながら、エコシステムを作ること」だと思っています。

「Bean to Bar」のBeanを産地、toを製造技術、Barをライフスタイル(体験)と置き換えてみた時、この3つのポイントを全て新しくしていくと、新しい文化が生まれるんじゃないかというのが我々の考えです。

まずBean=産地との関係を新しくするところからお話しします。

基本的に流通構造として、栽培されたカカオの価格決定権は生産者にありません。カカオは7割がアフリカで生産されるのですが、植民地貿易時代の名残で、先進国の先物取引で決定された価格に基づいて生産価格が決まっています。

ですから農家からすれば、極端に言うならいいものを作ろうが悪いものを作ろうが同じです。「量の経済」ができてしまっている訳ですね。

我々はここに「質」の概念を持ち込もうとしています。

一方的な先物取引ではなく、フェアトレード(公平な貿易)の考えをもっています。我々が買う場合は、カカオの質を吟味します。その上で、最低でも市場価格の2.5〜3倍で購入するようにしているんです。

その前提として、求める味のクライテリア(基準)を生産者に提示し、「このランクだったらいくらで買う」というのを伝えています。

例えば、枝の剪定を年1回しか出来てないところを年3回に増やしたら、1㎏あたり数セント価格を上げる、といったことを明確にして、生産者と話し合いながら進めているんです。

このように、生産者の努力が、質と価格に跳ね返るような仕組みを作ろうとしていますが、概念的に言うのは簡単ですが、実際にやるのはすごく大変です。

農業は「美味しくする方法」に未知な部分がたくさんあり、天候も含め、変数も無数に存在します。明確な答えが無い訳です。

それでも、5年でも10年でも対話を続けることで、農家の方々が質へ興味を持って、こだわりを持ってくれるだけでも大きな前進だと思っています。

私は毎年必ず1回は農地に直接足を運ぶと決めているのですが、実際に完成したチョコレートや、お客様が喜んでいる動画を見せたりすると、本当に喜んでくれるんです。パッケージを神棚にかざる方もいるくらいで。(笑)

どんな生産者でも、自分が作ったものが、美味しいと言って食べてもらえることはモチベーションに繋がります。

「量の経済」から「質の経済」を作っていく。それが産地との関係を新しくしていくということだと思っています。

次にto=製造技術のお話しをします。

今までのチョコレートは全て「足し算」で作られているんです。カカオに対して、ミルクや香料など様々なものをデコレーションして作り上げていく訳です。

そういった製造方法を、日本人の特性である、きめ細やかさで捉え直した時に、製造方法は素材の良さを引き出す「引き算」にできると思ったんですね。

ブランド名の「Minimal(最小限の)」というのはそういう意味です。

「足し算」的な西洋のやり方ではなく、素材の良さを引き出す日本の「引き算」のやり方で作ろうというのが我々のコンセプトなので、Minimalのチョコレートはカカオと砂糖だけといった最低限の素材で出来ていたり、豆のローストの仕方まで徹底的にこだわって作っています。

例えばですが、カカオ豆が本来持つ酢酸の香りを残したチョコを作りたいとします。

物性上、酢酸は118℃で揮発してしまいます。しかしながら、一般的にチョコは工場で150℃以上で加熱されるので、普通の工程では香りは残りません。一般的には、後で香りを香料などで足す「足し算」のやり方ですので、これでも問題はありません。

でも我々は素材の持つ価値を「引き算」で引き出したい。そのために、揮発しないギリギリの温度で加熱して、最後の5分だけ一気に加熱する、といったように1分1℃のレベルで、きめ細やかに仮説を立てながら研究しています。

──まるで実験ですね。

私は「理系の男子クラブ」と呼んでいるんですけど。(笑)

でも、そうした自由な発想と工夫があったからこそ、ダークチョコレートの世界最高峰である「インターナショナルチョコレートアワード 世界大会2017」で金賞をとることが出来たんです。我々のカテゴリーで、日本のブランドがそれだけの成績を収めたのは初めてのことです。

素人である我々だからこそ、製造工程を改めてゼロから捉え直し、新しい価値を生むことが出来た証左だと思っています。

──最後にBar=ライフスタイル(体験)の部分はいかがでしょうか。

我々は「Life is Chocolate」という言葉を使ってこの部分を表現しています。

今までのチョコレートは、横軸に日常と非日常、縦軸にコト消費、モノ消費をとってポジショニングマップを作ってみると、2択しかなかったんです。

一つ目は日常使いのモノ消費で、コンビニに置いてあるような廉価版のチョコレート。

二つ目は非日常のモノ消費で、ブランド名で選ぶ高級チョコレート。

でも、我々がやりたいのはコト消費としてのチョコレートなんです。

日常でも非日常でもいいのですが、生活を彩る嗜好品として、チョコレートを囲むシーンを豊かにする提案をしていきたい。

例えば、日本酒とチョコレートといった珍しいペアリングをしたり、「Morning with Chocolate」と題してコーヒーやグラノーラとの組み合わせを提案してみたり。自分の生活の中で、ちょっとチョコレートがあることで特別な時間を演出できる、コミュニケーションが生まれる、そんな生活体験やチョコの消費の仕方を提案をしています。

また、そういった提案を広げるために、他のブランドとのコラボも積極的にしています。

例えば、銀座にあるシガーバーで、ホンジュラス産のシガーとお酒とチョコを合わせてみると、不思議なものでとても合う。それは単なる味を超えて、ホンジュラスという遠く離れた土地に想いを馳せる体験も含めての味なんです。

このように、チョコレートがちょっとしたスパイスとなって、体験を豊かにする。人生を豊かにするアイテムになりうると思っています。

まとめると、生産者がよい豆を作ることによって我々が高く買い、生産者の収入が増える。我々はきめ細やかな製造工程でチョコを作る。そしてお客様に新しいチョコレート体験を提供する。お客様がそれに価値を感じて評価をくだされば、生産者や製造方法に評価をフィードバックできる……。

この「三方良し」のサイクルを回していくことこそが、我々の考えるエコシステム作りです。

日本人の「きめ細やかさ」こそが日本の資源

──素晴らしいお考えです。それにしても、もともとコンサルティング事業に携わっておられた山下さんが、どうしてBean to Bar専門店を立ち上げようと思われたのでしょうか?

30歳になった時に「やりたいこと」と「意味のあること」がちゃんと重なる事業で、この国に貢献したいと考えたからです。

まず「やりたいこと」についてお話します。

私が大学生くらいの時に出版されたダニエル・ピンク著の『ハイ・コンセプト』という本を読んだことが強烈な体験になっています。

昨今でいうとAIの文脈でよく言われますが、「人間にしかできないこと」ということを突きつめるのが、キャリアを捧げるうえでは大事なことであると、その本には書いてあります。

そういった「人間にしかできない仕事」に自分自身もワクワクするし、本気でやりたいなと考えています。そう捉えた時に、コンセプチュアルで、広義な意味での課題解決をやりたいと思いました。そこで、「それってブランド運営だな」と閃いたんです。

ブランドって、課題に対してメッセージが存在していて、それをどうデザインして人を巻き込むストーリーを作っていくかですよね。これをすごくやりたいなと。

「意味のあること」については、前職であるリンクアンドモチベーション時代の体験が根底にあります。

JALの再建プロジェクトなどナショナルクライアントとの案件に多く携わっていた頃、グローバル人材育成の話題がよくクライアントの課題として出ていたんです。

その当時、「日本人は発言ができないからダメ。だからマネジメントできないんだ」というように言われることがあったんですね。

でも私は現場を見ていて「いや、ちょっと待てよ。たしかに発言ができない場面もあるけど、すべての場面で日本人は発言ができないんじゃない。むしろ空気を読んだ上で、適切な場でクリティカルな発言をするんだよな」と感じていたんです。

そんなぼやっとした原体験の上で、日本という国の資源を考えた時に、「人」、もっと言うと「国民性のきめの細やかさ」が競争優位性になるんじゃないかと考えたんです。

物事に対する網の目が細かいからこそ、コミュニケーションであれば会議で空気を読んで発言するのもそう、それがサービス業になればおもてなしになるし、伝統工芸であれば洗練された技術になっているんだなと。

もう一つ、原体験を挙げると、私の地元の岐阜県です。

人口が減り、若者が離れ、内需が減っていく。そんな地域を目の当たりにする中で、この国の競争優位性を作るためには、外貨を獲得して、人を育てなければならないと思っていました。

そういった原体験のもと、なにをプロダクトにするかは何でもよかったのですが、「国民性のきめ細やかさ」をシーズにしてブランドを作り、市場を席巻し、雇用を生み、外貨を獲得すれば国に貢献できるのではないか、日本人の誇りに繋がるのではないかという考えに至りました。

それで大好きだった前職を辞めたんですが、Bean to Barチョコレートを知った時、まさに自分が「やりたい意味のあることだ」と直感したんです。

 

 

>>4話目「Bean to Barの先駆者が語る、愛されるブランドつくりの要諦」に続く

>Minimal公式HPはこちら

著者 小縣 拓馬

著者 小縣 拓馬

著者 小縣 拓馬

起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。     ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~

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