スマホネイティブ世代における、ファンの増やし方 ウツワ稲勝栞社長(第2話)

若い女性から圧倒的な支持を得るアパレルブランドを展開するファッションデザイナー「ハヤカワ五味」こと稲勝栞。若手女性起業家の彼女が創業から丸4年を経て得た、起業家としての素養、ブランドの育て方などについて聞いた。(全3話)

「服にお金を使う体験」の価値を高める

——御社のブランド戦略をお教えください。

ブランドメッセージを一言で言うなら「自信を持ってほしい。」です。

私は、どれだけ技術が進歩しても無くならない感情の一つが「コンプレックス」だと思っています。その「コンプレックス」に対してつけこむのではなく、少しでも薄められるようなサービスに取り組みたいと考えています。

そのため、私たちの商品を買うことによって自尊心が高まってくれたらいいなと思っていますし、弊社の商品を買うことで、「自分が大事にされている感」を持ってくれたら大成功です。

そのために、誕生日に購入いただいた方には手書きのメッセージをつけたり、購入の一週間後にフォローのDMを送るなど、高級ブランドで行われるような細やかな体験を提供するよう心がけています。うちのような中価格帯ブランドでそこまでやっているのは珍しいと思います。

私自身も原体験として、「新宿伊勢丹の好きな担当の出勤日に買いに行く」など、合理的には説明できないような買い物の仕方をしてきました。そういった非合理を引き起こした原体験を文字に起こして、再現性がある部分を抽出して実施するようにしています。

実際、弊社のユーザーは、他ブランドとの比較ではなく、「他趣味・娯楽との比較」で購入していただける方が多いんです。なので、丁寧にケアをして、「大切にされている感」を醸成することが、二回目、三回目の購買に繋げるのに効果的になっています。

 

——ブランド価値を広めるために重要視されているポイントはどのようなことでしょうか?

ブランドとしてお客様に何が誠実かというと、間口を広めておくことだと思っています。そこでの、キーワードは「読解力への理解」です。

「読解力への理解」の一例を挙げると、通販サイトにメニューのことを「MENU」と書いている場合がありますよね。その際に「『MENU』と英語で書くと読めない人がいる」というところに理解が及ぶと、表現の方法が変わってくるはずなんです。つまり、「この表現で伝わるかな」「この表現で不安を煽らないかな」ということに気を配っています。

例えば、靴で「ヒールの高さが9cm」とだけ説明するのではなく、「クッションが入っているので、ギリ走れます」といった表現なら理解いただけるかもしれません。

特に写真や動画でのコミュニケーションが主流となっている若い年齢層は、想像以上に文章が読めない・読まない人が多いと感じています。そういったユーザーの「読解力への理解」と、その読解力に合わせる形での発信が、ブランドの価値を広めるために重要だと思っています。

ハヤカワ五味流、マーケットの捉え方

——そういったユーザーの感覚を捉える秘訣は何でしょうか?

まず、私自身が「普通の生活」をしているというのが大きいと思っています。同世代の経営者で「スーパーで豚コマ100グラムがいくらか」と聞いてわかる人は少ないと思いますが、私は普通にスーパーで買い物もするのでわかります。(笑)

次に、「自分の世界が当たり前と思わないこと」が大事だと思います。これは私の趣味でもあるのですが、人が何を考えているのかを知るのが好きで、どんな人がいるのだろうというアンテナを常に立てるようにしています。

たとえば、同じ若者でもEXILEが好きな人もいれば、西野カナが好きな人もいるし、色々な人がいます。

様々な人たちのことを理解するためにも、よくバーに行き、隣の人に喋りかけたりしています。普通のサラリーマンの「家に帰るのがめんどくさい」といった話を聞いたりするんです。そうやって、出来るだけ自分とは異なる世界観の人たちにアクセスすることで、「自分以外の世界」を理解するようにしています。

 

——具体的に、最近気になっている変化はありますか?

たとえば、特に女子高生を中心に「女子同士で手を繋ぐ人が増えた」と感じています。この半年くらいで、びっくりするくらい急に増えています。私もいまだにこの現象の理由が分かっていません。普通にカップルなのか、はたまた韓国ブームの影響で「女子同士で手を繋ぐのは可愛い」と思っているのか。声をかけて理由を聞きたいぐらいですね。(笑)

「言葉の力」と「成長過程の可視化」でファンを増やす

——コーポレートサイトブランドコンセプトを拝見していると、言葉の使い方が非常に印象的と感じました。情報発信する上で、何か意識されていることはありますか?

大前提として「言葉で人が動く」ことを信じています。それは、自分自身が言葉に動かされてきた体験があるからです。

元々広告業界への就職を目指していたので、参考になりそうなキャッチコピーをたくさん見てきました。その上で、ブログやtwitterなどで意識的に情報発信の場数を増やし、文章の精度を上げるよう工夫しています。

また、私が素敵だなと思う人は「言葉選びが綺麗な人」が多いのですが、「自分がこうありたい」「こういう人がかっこいい」といった情報発信をすることで、そういった素敵な人と繋がれるようになりました。おかげで普段の会話でも、綺麗な言葉遣いに接する機会が増えています。

人と話したり、文章を読んだり書いたりする中で、綺麗な言葉と出会う機会を増やすこと。そして、自分の情報発信する場数を増やし、常に一番綺麗な言葉遣いをすることを心がけています。

この結果として、自分と近い価値観の人と触れ合う機会が増えたので、その点でも良かったなと思っています。

 

——SNSでは多くのフォロワーを抱えられています。これまで実践されてきたファン作りのコツをお教えください。

「『バグ』ではなく、妥当に成長した」ことが信頼に繋がったのだと思っています。

妥当な実力が無いのに突然売れたりする人っていますよね。そのような「バグ」が起こっても、見ているユーザーからは信頼してもらうことはできません。その点、自分の力よりも大きな力を持っているように見せるのは、意識的に避けています。

私はこの4年間、その時々の最新情報を正直に発信し続けてきました。結果、ここまでの成長過程が全て見えるようになっています。だから、私がブログでビジネスに関する高度な発信をしても「この4年間で妥当に成長してきたんだな」とユーザーから信頼してもらえます。

ユーザーは経営者に超人を求めている訳ではありません。経営者って響きだけで「怖い」とか「偉そう」とか思われることがあるんですが、これまで一段一段上がってきた過程が見えていれば「応援したい」と思ってもらえます。

「ここまでは自分で考えましたが、ここからはわからないので教えてください」といった情報発信をしていると、先輩の方々から「多分ここはこうだと思うよ」と言っていただけます。

そのため、身の丈に合った発信を正直にし続けようと心がけています。

 

 

>第3話「新たなカルチャーを創る、ハヤカワ五味劇場「第二章」」に続く

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DIMENSION 編集長

DIMENSION 編集長

「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。

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