「全員経営」を体現する企業文化のつくり方 アトラエ 新居佳英社長(第5話)

企業文化をつくるコミュニケーション戦略

――前回(第4話リンク)、御社の独特な組織コンセプトや仕組みについてお伺いしました。続いて、企業文化を醸成する方法についてもお聞かせいただけますでしょうか?

弊社はかなり強固な企業文化を持っていると思いますが、そこに大きな影響を与えているのが「新卒入社比率の高さ」です。弊社の社員は7割くらいが新卒入社の社員です。新卒入社の社員は当然ながら初めて働く会社なので、弊社の文化に強く影響されます。そういった社員が7割もいると凄く濃い色になっているので、中途で入って来た人たちもその文化に簡単に染まっていきます。

加えて、継続的に文化を強固にしていくために「コミュニケーション戦略」はしっかりとやっています。これも先述のワーキンググループ(第4話リンク)中心に考えてもらっています。例えば、会社の事業以外の課題点を、みんなで出し合いディスカッションする機会を月に1回設けています。月末の金曜、夕方4時くらいから3時間程度行なうのですが、そこでは業務のチームとはまた違うチームをランダムで組んで、会社のビジョンや行動指針、今抱えている組織的課題などについてディスカッションしています。

また、私が矢面に立って社員の質問を受ける場も設けています。「給与水準がまだ低いと思うのですが、社長はそれに対してどうお考えですか?」など、辛辣な質問も多いですね。(笑)

端的に言いますと、うちの企業文化は「全員が自分を会社の経営者だと思っている」ことです。悪いことや課題は一緒に変えていけばいい。そういった文化を反映して、様々な施策も練られています。

 

――業績指標についても同様に社員の皆さんはオーナーシップを持たれているのでしょうか?

そうですね、いわゆるKPI管理といったものは、ボードメンバーからはあまり行なっていません。

うちのやり方としては、まず社会や株主に対してコミットする計画を立てる段階で、現場とコンセンサスをとります。なので、立てた計画を社員に共有する段階では「みんな、この数字知っているよね」という状態です。あとはボードメンバーが管理しなくても、社員全員が「自分が経営者」だと思っているので、責任を持って計画を達成するためのアクションを実行してくれています。

進捗をチェックする仕組みとしては、毎月報告会を実施して社員全員で議論する場を設けています。「他のチームが広告コストを上げたいと言っている。それならばうちのチームのコストを下げないと会社計画を達成できないんじゃないか」といった調整の議論まで、メンバー全員で議論しているんです。

KPI管理をする目的は、何かあった時に早めに察知して、早めに修正することです。ですので、察知する仕組みは必要ですが、修正方法までをマネジメントするということはありません。全員が意欲的であれば、自発的に改善していってくれるのです。

 

適性よりも尊重される「本人の意志」

――成果達成の肝となる人材配置についても同様に本人のオーナーシップに委ねられているのでしょうか?

はい、向き不向きも大事ですが、基本的には本人の意志や想いを優先して人材配置を決めています。

もちろん「あなたの能力ならこっちの方がスムーズに貢献できる可能性がある」といったようなアドバイスはします。それでも本人がやりたいというのならば、「これくらい努力しなきゃいけないし、こういうところを改善する必要があると思うよ」といった話もきちんとするようにしています。

この考えの根本には、私が逆の立場だった時の体験があります。それは、前職のインテリジェンスを辞める時に、「お前は10を1,000にできる経営者だが、0を10にする起業家ではない。だからインテリジェンスの社長になれ」と言われたことです。自分の適性はよく理解していましたし、みんなにもそう言われるから、わかってはいました。けれども、適性より私は意志が大事だと思い、「僕は0から1,000を作りたいんです」と言って辞めました。

その後、もちろん苦労はしましたが、意志さえあればなんとか道は切り開くことが出来ました。そんな原体験があるからこそ、私はできる限り本人の意志を重要視した人材配置をするようにしています。

 

――とはいえ、本人の意志を尊重したものの、パフォーマンスが発揮できない場合もあるのではないでしょうか?

そういった場合は本人が自然と気づくものです。貢献できないということは「ストレス」ですから。本人が気づいているタイミングで、他のチャンスを提示すると、自発的に選ぶケースが多いです。自分から申告してくるような人もたくさんいます。

 

ビジネスでも「やりたいこと」だけを突き詰める

――あくまで「やりたいこと」をベースに仕事をされることを徹底されているのですね。

世の中では「給料」で仕事を選ぶ人も多いですが、それは間違っていると思います。

例えば、音楽でハードロックをバンバン歌いたい歌手がいたとします。でも給料のために仕方ないから、アイドルグループに合流したとしたら、たしかに給料は上がるかもしれないけれど、それって本当に幸せなんでしょうか。僕にはそうは思えません。

音楽やスポーツでは当たり前とされている価値観が、ビジネスになった瞬間に「やりたいこと」よりも「給料」が優先されることが多い。これはビジネスの中で「やりたいことが無い」人が多いからでしょう。逆に、起業はビジネスでの「やりたいこと」を優先した結果でしかあり得ません。お金は一つの経済的要素としてもちろん必要ですが、私はお金の量が幸せの量だと思ったことは今まで一度もありません。

私の例を言いますと、28歳の時に起業し、28歳から35歳までが貧乏の極限でした。社長なのに、1年目のメンバーよりもお金が無い状態で、同窓会に行ったら一番貧乏な状態でした。(笑)そこから上場を経て、今となっては資産が増えましたが、私の中での志や幸せの定義は一切変わっていません。知人からは、貧乏な時代も今も、「楽しそうだね」と言われ続けています。「やりたいこと」をビジネスでも突き詰めることが、最も幸せな状態であると、私の実体験を通して胸を張って言うことが出来ます。

 

――御社のような取り組みは、なかなか途中からは模倣できないようにも思いますが、いかがでしょうか?

いえ、ある程度規模が大きな組織でも 、途中から組み立て直せると思います。ただ大事なのは「経営者が組織コンセプトを持つこと」、そして「ルールを最初から決めないこと」です。大事なのは経営者の組織に対するコンセプトであって、ルールではありません。どういう組織にしていきたいか、どういう人がどういう風に働ける様にしていきたいかというコンセプトはちゃんと持った方がいい。その中で、ルールは状況によって柔軟に変化させるべきです。

別にフラットな組織がすべての会社にとって理想形ではありません。しっかりとしたマイクロマネジメントを軸に、マネージャー主導の組織を作っていく、というのも一つの答えでしょう。

どういう形であれ、組織をつくる上ではまず経営者が組織のコンセプトを定めること。そしてルールはあまり決めすぎないこと。これが重要だと思います。

 

 

>第6話「アトラエ新居流「同じ船に乗る仲間の見つけ方」」に続く

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筆者 下平 将人

筆者 下平 将人

筆者 下平 将人

法律事務所、LINE株式会社の社内弁護士(リーガルカウンセル)、新規事業開発を経てDIに参画。DIでは、ベンチャー投資、投資先の経営支援に取り組み、投資先企業の社外取締役等を務める。東京弁護士会所属弁護士。Arts and Lawに所属しクリエーターの無料法律相談を担当。チャレンジングな事業領域に挑戦する起業家と汗をかき、共に理想を追い求め続ける存在でありたい。

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