マネタイズできる「ビッグデータ」の見極め方とは JMDC 松島陽介社長(第4話)

「データとICTの力で、持続可能なヘルスケアシステムを実現する」をミッションに掲げ、国内最大規模のヘルスビッグデータベースを駆使したデータ事業や遠隔医療事業などを展開する株式会社JMDC。2019年12月に東証マザーズ上場後も、その資本市場評価を急成長させ続けている。今回は代表取締役社長兼CEO 松島陽介氏に、経営者として重要な素養、そしてデータビジネス成功の要諦などについて、DIMENSIONの伊藤紀行が聞いた(全5話)

「ほどよい」データを見極めよ

ーーJMDCの社長に就任されて以降、業績は右肩上がりで東証マザーズ市場への上場も果たされました。データ事業において、どのような取り組みをされたのでしょうか?

やったことはシンプルです。お客様が求める形に商品の優先順位を組み替えたのです。

私が社長就任した当時、弊社は医療データを活用したサービスをサブスクリプション形式で売ることに注力していました。データ自体は高付加価値だったので一定のセグメントのお客様には売れていたものの、ある一定のセグメントには売れていなかったんです。

その理由を紐解いていくと、サブスクリプション特有の「長期契約」がボトルネックになっていることがわかりました。サービス・データには価値を感じているものの、お客様の社内決済ルール上そういった長期契約は難しい、という理由です。

そこでサブスクリプション形式に拘らず、アドホック(特定目的用)を打ち出していくよう方針を切り替えた結果、顧客数は急増しました。そして、サブスクリプション契約でなくとも、継続的にサービスを使用していただけているのです。

もともとポテンシャルの高いデータサービスを、顧客にとって受け入れやすい形に整備する。これは私が意識的に行なったことです。

 

ーー「データビジネス」は様々なベンチャーが挑戦していますが、マネタイズで苦労する企業も多いです。マネタイズできるか否かの分水嶺はどこにあるとお考えでしょうか?

「ほどよい」データを見極めることではないでしょうか。

世の中にうごめくあらゆる森羅万象をデータで整理しようという高慢な思いからスタートすると、おそらく事業は失敗します。

なぜなら、そういった生データを使おうとするには、データを使う側にも相応のリテラシーが必要となってしまうからです。

しかし、構造化されていないノイズだらけのデータを元に事実を判別しようとするほど、世の中にリテラシーは備わっていません。極論、お客様はデータなんて無くとも判断できますし、データがあったところで世の中全てのものが見えるわけでもないのです。

マネタイズで苦しむ多くのデータビジネスは、このデータ選定の時点で間違えてしまっているように思います。

狙うべきはある程度構造化され、業界内で共通言語化されているデータ、例えば弊社でいうレセプトデータや検診データなどを、ノイズを取り払って提供してあげること。これであれば、受け手のリテラシーが高くなくとも有意義に機能し、普及していきます。

逆に、まったくノイズが無い普通のデータを単に集めて売ろうとしても、付加価値はありません。

易しすぎず、難しすぎず。そういう「ほどよい」データに着目することが大事だと思います。

 

あらゆるデータが「つながる」時代

ーー御社で取り扱われている「医療データ」について、最近感じられているトレンドなどがありましたらお聞かせください。

あらゆるデータが「つながる時代」になってきています。

これは医療データにおいても同じで、製薬・調剤企業から医療機関、事業主、医師・患者や民間保険会社にいたるまで、バリューチェーンのいたるところでデータが組成され、つながり、活用され始めています。

もちろん医療データは個人情報ですので自由には連結させられませんが、個人ID同士で繋がなくとも、より深い階層の小さな共通項をフックとしてデータをつないでいく動きが活性化しています。

現在は個々に独立したデータベースであったとしても、今後は技術的進歩とともにどんどんとデータが横で繋がっていくでしょう。

そうするとで何が起こるかというと、「因果の範囲」が広くなります。

 

ーー「因果の範囲」、とはなんでしょうか。

たとえば現在、生活習慣病の原因として高血圧や血液などが挙げられていますよね。

しかし今後は、病気の原因が食生活や運動、遺伝子、家族構成や思想信条にいたるまで、広範囲に広がっていくでしょう。そして因果の範囲が広がることにより、医療に関わるプレーヤーが増え、どのような治療が効率的なのかも高精度に識別されていきます。

この流れの中で、いかにそれをビジネスモデルに転じていくかは、我々がこれからやっていかないといけない部分です。先ほど申した「ほどよい」データは時代とともに変化していきますから、現在はまだ構造化されきっていないデータにも、今後はビジネスチャンスが広がっていくでしょう。

 

 

>第5話「2025年問題」をどう解く?医療ビッグデータで描く日本医療制度の未来」に続く

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著者 伊藤紀行

著者 伊藤紀行

DIMENSION Business Producer:早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA, 英語)修了。 株式会社ドリームインキュベータからDIMENSIONファンドMBOに参画、国内のスタートアップへの投資・分析、上場に向けた経営支援等に従事。主な出資支援先はカバー、スローガン、BABY JOB、バイオフィリア、RiceWine、SISI、400F、グローバ、Brandit、他 全十数社。 ビジネススクールにて、「ベンチャー戦略プラン二ング」「ビジネス・アナリティクス」等も担当。 著書に、「スタートアップ―起業の実践論 ~ベンチャーキャピタリストが紐解く 成功の原則」

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