起業家大国 SFC教授が語る起業家の条件 慶應義塾大学 國領教授(第1話)

インタビュー|2017.08.08

SFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)で総合政策学部長、研究所長などを歴任し、現在は慶應義塾常任理事を務める國領二郎教授。長らく慶應義塾大学で起業家の育成に携わってきた國領教授に、教育の現場から見た起業家としての心構えや、日本のベンチャーが世界で戦い抜いていくための秘訣について聞いた。(全6話)

起業家を育む「失業した時はお互い助け合おう」の精神

――起業家にとって大事な3つの素養を挙げるとすれば何でしょう?

一番大事なのは「楽天的であること」ではないでしょうか。

楽天的と言っても、リスクも何も考えずただがむしゃらに突っ込めということではありません。起業家はビジネスをやっているうちに必ず色んな問題に直面するので、そういう時に問題をむしろチャンスだと捉えられるようなタフさというか。そういう意味での「楽天的」ですね。

また、これは後ほど詳しくお話ししますが、良くも悪くも「現状」は必ず変わるものです。なので現状に満足せず、かつ絶望しない、そんな考え方を持ち続けることが大切だと思います。

――なるほど。そういう意味では起業を志すような人は、その時点で楽天的なのかもしれませんね。

そうですね。ただそれだけではやはり駄目で、これが2つ目の素養に繋がってくるのですが、「理想を持っていること」は不可欠です。

起業家の中で、起業当初に想定した通りの形で事業をずっと続けられている人なんてほとんどいないと思うんですよね。ただ、変化する中でも一本筋を通して「自分はなぜこれをやりたいのか」を貫ける人は、たとえビジネスの形が変わろうともブレない強さを持っています。そのようなブレない理想を持つことが重要だと思います。

そして最後の3つ目は「貪欲に学習できること」。言い換えれば、どんどん吸収できること、学べることですね。

これに関しても、目まぐるしく変わる状況に置かれた時に、たったひとつの凝り固まった見方しかできないと絶対に駄目です。各自のステージに合わせて、常に学びを深めながら経営判断していくことが大事なのではないでしょうか。もちろん、大学で講義を受けるような学習だけではなく、先人たちの言葉を聞いて刺激をもらうことも立派な「学習」です。

國領二郎(Jiro Kokuryo)

慶應義塾常任理事、慶應義塾大学総合政策学部教授。日本のアントレプレナーシップ教育における第一人者。1982年東京大学経済学部卒業後、日本電信電話公社(現・NTT)に入社。1992年ハーバード大学経営学博士。1993年慶應義塾大学大学院経営管理研究科助教授として着任後、現任にいたる。主な著書に『オープン・ネットワーク経営』(日本経済新聞出版社、1995)、『オープン・アーキテクチャ戦略』(ダイヤモンド社、1999)、『オープン・ソリューション社会の構想』(日本経済新聞出版社、2004)、『ソーシャルな資本主義』(日本経済新聞出版社、2013)がある。

 

――そのような素養は、先天的なものか、それとも意識的に身につけられるものか、どちらなのでしょうか?慶應義塾大学、特にSFC(湘南藤沢キャンパス)では優れた起業家を多数輩出されている印象です。「こういう環境が起業家の素養を育てる」というものがあれば教えてください。

自分の周りに似たような志を持った「仲間の存在」が最も重要なのではないでしょうか。ソフトバンクの孫正義さんのように単独で立ち上げられているように見える方もいますけど、普通はそういう天才的な人間がひとりいるだけでは駄目で、横のつながり、縦のつながりが重要なんです。

まず「横の仲間」。

たとえば、「プログラマーがいない!」と思った時に、自分の周りで似たようなことをやっている人にプログラマーを紹介してもらったり、難解な法的問題にぶち当たった時に、「同じような問題に直面している人がいるから教えてもらったら?」と助けてもらうことができますよね。これが「横の仲間」です。

次に、「縦の仲間」。

20年間、私も教育者としてその一助になればと思い活動してきましたが、ようやくここ数年になって、名を上げた先輩起業家が後輩を育てる・助ける、というような縦のエコサイクルが回り始めたと感じています。そういった意味で上下のつながりは大切なのですが、これを作り上げるにはとても長い時間が必要です。

このように時間をかけて多種多様な「横」と「縦」の仲間が揃った環境が、起業家としての素養を育てていくんだと思います。だからこそ、僕は卒業していく生徒達に「偉そうなことは言わないから、失業した時はお互い助け合おう」という言葉を贈るようにしているんです。

「30年計画」でベンチャーエコシステムを作る

――SFCから起業家が多数輩出されている背景には、長年かけて培ってきたそのような縦横の繋がりがあるということですね。

「どこのベンチャーに行っても、1人はSFC出身者がいるよね」みたいな話はよく聞きます。それだけ、様々な人材が流動的に市場に行き渡って、かつ「SFC出身の仲間」という繋がりが起業家としての意識を醸成している側面はあると思います。

――ベンチャーに対する理解が未熟だった時代から、20年でそのレベルにまでなってきたということですね

僕が教員としてSFCに行ったのが2003年だったんですけど、その直前がちょうどネットバブルの時期で、もうとにかく凄かったんですよね。あまりにも大混乱していたので、「何とかしてくれないか」と頼まれたのがSFCに行ったきっかけでした。

あの頃は、せっかく会社を作ったのに悪い人に乗っ取られたとか、基本的なルールが分かってなくてトラブルに巻き込まれた……とかいうのが数え切れないほどあったんですよ。その時代に比べると、今は情報も仲間も揃い始めて、良い時代になってきたのではないかなと思います。

詳しくは後ほどお話ししますが、このベンチャーエコシステム作りを意識し始めたときに、「30年かかる」とスタンフォード大の教授に言われたのですが、それから20年が経ちました。いまはまだ道半ば、これからも波乱があるかと思いますが、根気強く向き合っていきたいですね。

 

>>第2話 「自分が起業すべきタイミングがいつなのかを見極める」に続く

著者 小縣 拓馬

著者 小縣 拓馬

起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。     ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~

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