秋元康がパートナーに求める条件とは SHOWROOM 前田裕二社長(第3話)

社員を「信じて任せる」

――前田さんは秋元康さんなどの大物と強いパイプをお持ちです。巻き込む力の源泉はどこにあるのでしょうか?

きっと複雑な事はなくて、全てはご縁を引き寄せる力かなと思います。本当に、強力な「運と縁とタイミングの重なり」によって、一緒にお仕事をさせて頂くようになりました。

そして、巻き込み力をあえて一般化してお伝えするなら、エモーションとロジックの2つの側面に分解できるかと思います。

まずはエモーション。秋元さんは以前、優秀かどうか以上に、絶対に裏切らないと信頼できるかどうかで、パートナーを決めていると話していました。その点で、自分自身、異常に義理堅い兄の教えを強く受けて育っており、何があっても仲間を絶対に裏切らないと言い切れるし、僕も逆にそういう人と仕事がしたい。きっと、ここに対して強いこだわりを持つ者同士が、惹かれ合うのだと思います。これがエモーショナルな意味での強みです。

次にロジック。こちら、「自分は、誰に対しても付加価値を出していける」という自信です。その自信を支えるのは、圧倒的な物量をこなしているという自負かもしれません。そしてそれができるのは、先ほどもお話ししたような(第1話リンク)強い原動力があるからです。

 

―― 一方で社員に対してのマネジメントで意識していることはありますか? 前田さんが自分と全く同じパフォーマンスをメンバーの方に求めるのは難しいという中で、どう任せていくのかというのには、たぶん「前田さん流」みたいなものがあるのではと思うのですが。

信じて任せる、僕はほぼ関与しないレベルで任せるというのを、結構やります。

というのも、例えば、SHOWROOMというプロダクトについて、いわゆるボタンはここにあってとか、仕様はこうで、とかいうことを当然初期においては自分がやっていて、それを離せない時期というのが僕の中にあって。1個1個の機能改善とかも、明確に仮説を持ってA/Bテストとかやらないと気が済まない、と。仮説構築のスピードとクオリティについては、絶対の自信があり、自分がやっちゃった方が早いって思っちゃってた、驕りの時代がありました。企画立案や渉外に関しても同様です。自分が出ていって話した方が、交渉成立確度が高い、と。

でも、会社がだんだん大きくなっていくにつれて、スタイルが変わってきました。今は意識的に、経営寄りの仕事を増やしています。一歩俯瞰して事業全体を眺め大戦略を描く。会社の顔として外に出て、仲間を増やしにいく。採用に対してとにかく時間を割いて、日々面接をする。SHOWROOMという船の中で自分が本当にフォーカスすべき仕事が見えてきた中で、自分1人の筋力でばたばたとオールを漕いでいても、この船は遠くに行かないな、って思ったんですよね。であればオール漕ぎは僕より筋力のある誰かにやってもらって、自分は帆の進め方を考える指令業務に時間を使えばいい。組織としてのスケーラビリティや、比較優位への意識がかなり強くなりました。

それで、投資銀行時代の「全部僕がやります」ってスタンスを変えました。だから今は、信頼してすごく任せています。むしろ、「本当にいいんですか、そんなに自由にやって?」みたいに相談を受けることがあることもあります。全然いいよ、と。自分なりに考えてみて、また教えてと。

 

社員のレベルをどう引き上げるか

――今おっしゃっていたように、前田さんがやっていたクオリティと、任せた社員の方のクオリティには残念ながら差があることもありますよね?それをどうやって埋めていくのでしょうか?

それこそLINEとかでクイックに、作った資料や企画書を送ってもらって、結構細かい粒度でマイクロマネジメントすることもあります。これもやっぱり仮説思考の話です。

例えば資料を作っていて、入れる文言を考える際には、それによって相手にどういう印象を与えるかとか、交渉上どういう風に有利になるかっていうことについての仮説があるわけですけど、それはなんなの?って聞きます。その仮説がない場合は怒るし、仮説があっても、それが見当違いな場合は教えるという感じです。

 

――単純に全て手取り足取りでっていうより、仮説はどういう風に持っているの?それを実行してみた?みたいなことを繰り返していって、徐々に仮説と実行についてのPDCAの意識を伝播していく、みたいなのが前田さん流ということでしょうか?

そうですね。でもまあ基本は「自由にやってくれ、何かあっても尻拭いはするから」と。予算もほぼNOって言わないですからね。急に「1億でこういうことやりたいです」って言われたらさすがに即答はしないけど、数百万規模で、「こういう商売してみたいんですけど」みたいな提案には、ほぼNOって言ったはことないです。

それで最初は、社員が逆にきょとんとしちゃうこともありました。「え?もっと検討されるのかと思ってた」と。でもそれって、そう思ってもらった方が、案件に責任感を持ってやると思うからなんですよね。これは自分が決めた企画であり、失敗できないな、絶対に成功させてやる、と。

相手によっては、僕があえてあまり中身を突っ込まずに、二つ返事でOKだよって言ってあげちゃうこともあります。これは、その人に対して全幅の信頼を置いているってメッセージになるので。その分、相当考え尽くした上での提案をくれないとだめですが。

ガラス張り合議型経営 VS 孤独なトップダウン経営

――経営でもう一つ気になるのは、情報管理についてです。フルオープンの会社もあれば、統制するような企業もあるじゃないですか。前田さん的に、情報を社員と共有する上で、気をつけてることってありますか?

これは超難しくて。僕の今の組織マネジメントにおける課題のトップ3に入るくらいなんですけど。だから逆にDIさんに教えてもらいたいくらい。笑

まだ全然うまくできていないんですけど、やっぱり、経営の中で、どうしても全員に伝えられない秘匿性の高い情報はあるし、意思決定の過程を全部透明にして、ガラス張りにして伝えられるかっていうと、難しいこともあります。だから社員の知らないところで意思決定されて出てきたとしても怒らないでね、組織ってそういうもんだよ、って意識が組織全体に広がらないと、経営効率は上がらないという側面もあります。ただし、意思決定プロセスに入ってもらった方が、アクション時の胆力やエネルギーが高いケースも多いので、やはりバランスが極めて重要です。このバランスがとても難しい。時折、スピーディーにトップダウンで意思決定を下さなければいけないこともあるわけですけど、そういう時、「それ全然知らないです。意思決定にぜんぜん参加してないですけど」ってことが社員のストレスになってしまっては元も子もないし。

難しいんですけど、そういう意味で気をつけていることとしては、チーム全体の成果を最大化するってとこにみんなの主座を置くのだとすれば、極端な話で言えば、僕が誰の相談もせずに、孤独に決めなければいけない意思決定もある。そういうものをちゃんと理解してもらう努力をする一方で、ある種みんなの合議制じゃないですけど、みんなの意見を取り入れるってことに関しては、例外を除いては最大限努力していくという、バランス感覚を養うことが大切なのかなと思いました。もちろん、もっと根底にある一番重要なことは、みんなとの信頼関係や、みんなに対する愛情や思いやり、だと思いますし、それ抜きで「俺の意思決定を信じろ」なんて、言えませんが。

 

 

>第4話「成長の本質は鉱脈の見極めにあり」に続く

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著者 小縣 拓馬

著者 小縣 拓馬

起業家向けメディア「ベンチャーナビ」 編集長。玩具会社のタカラトミーを経てDIに参画。ビジネスプロデューサーとして、主に国内ベンチャーへの投資・事業支援・戦略立案を担当。     ~「More than Meets the Eye」 これは玩具会社時代に担当していたトランスフォーマーというシリーズの代表的なコピーです。見た目だけではわからない、物事の本質に焦点を当てること。そんな想いで記事を提供していきたいと思っています。~

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