徹底的な他者研究から生まれる事業成長の方程式 WAmazing 加藤史子CEO(第5話)

"日本中を楽しみ尽くす、Amazingな人生に" のビジョンのもと、訪日外国人旅行者向けサービス「WAmazing」を提供するWAmazing株式会社。空港で無料のSIMカードを貸与する斬新なビジネスモデルで注目を集め、端末機の設置は国内20空港を突破した。急成長を続ける同社の代表取締役CEOの加藤史子氏に、起業家の素養や事業立ち上げのポイントなどについて聞いた。(全6話)

火種となる「マイクロターゲット」を定める

――訪日外国人におけるアプリダウンロード数も20万を突破し、急成長を続けられています。これだけの急成長を達成できた要因をお聞かせください。

マーケティングに関しては、まず私の中に「広告不信」という考えがあります。

昔のリクルートのテレビCMで「情報が人間を熱くする」というフレーズがあったそうです。1980年代の話ですから、私はまだ子供でしたし、インターネットが登場する前の時代のことなのですが、情報が世の中に求められていたことを象徴しています。

そのニーズに対し「情報誌」というジャンルを確立し、本屋での流通を通してユーザーに情報を届け、リクルートは成長してきたのでしょう。しかし、私がリクルートに入社した頃はすでに「情報過剰社会」と言われはじめており、私個人の感覚としては、広告がユーザーに嫌われはじめていることを痛感しながら広告ビジネスをやっていました。

なので、ユーザー集客を考えるときに、一方的な広告ではなく、お客様自体が自らすすんでインフルエンサーとなって情報が伝播していくような仕組みを作り出さないといけないと常に考えるようにしています。

 

――サービスのインフルエンサーを作り出すためのポイントは何でしょうか?

これは今も考え続けていますが、一つ大切にしているのは「マイクロターゲット」に狙いを定めること。

ベンチャーは特に経営資源(リソース)が資金も人材も限られています。なので、リソースをどう使うかが大事になります。

例えば、コップに入っている水がリソースだと仮定して、それを広い運動場に撒いたとしても誰にも気づかれません。でも、同じ量のコップの水を誰か一人のパソコンの上にかければ、影響は甚大でパソコンは壊れますし、パソコンの持ち主は必ず気づきます。当たり前の話ですが、同じリソースであれば、それを振り向ける対象が狭い方が効くんです。

今の事業でいうと、訪日する旅行客の数がいくら伸びているとはいえ、世界には約70億人の人口がいて、そのうち訪日数は約3,000万人。ということは、ほとんどの外国人は一生日本に来ることはないので、WAmazingのことを世界中に認知してもらう必要はありません。訪日の予定があったり日本に興味を持っている旅行客だけが知ってくれればいい。

その「訪日旅行客だけ」を振り向かせる方法として検討したのが「日本滞在時のSIMカード無料」でした。

無料SIMカードを排出するマシンは日本の空港に設置してあるため、日本に来なければ、そのインセンティブは手に入れることができません。しかし訪日する人にとっては、スマホが旅行中も必須アイテムになっているため、Wi-Fiスポットが少ない日本でネット通信問題は必ず存在するニーズです。また、対象地域を香港や台湾に絞ってサービスを開始したのもマイクロターゲットに集中するという考えからです。(現在は中国大陸やASEANにも拡大中)

 

相手を知れば、自ずと道は見えてくる

――無料SIMを受け取るための端末機の設置が20空港を突破されています。これだけ多くの方々を巻き込むことができたポイントをお聞かせください。

「巻き込む」と言うのは、こちら側の立場からみた言葉で、実は相手は基本的には「巻き込まれたくない」と思っています。給料も増えないのに新しいことやリスクにチャレンジすしたり、仕事が増えるのはイヤだという人は多いと思いますし、それが普通です。そのため、「巻き込みたい」とこちらが思うのではなく、相手が「巻き込まれたい」と思う環境を作るのが大切だと考えています。

WAmazingの端末機の場合でいうと「設置させてください」とだけ言っても、断られるか、よくても「じゃあ、テナント(店子)としてお金を払ってください」となりますよね。運よくテナントとして入ることができても、大家と店子の関係でしかありません。

私は、空港のことを、訪日外国人旅行者が入ってくる大切なリアルなタッチポイントとして考えているので、どうしたら相手と事業のパートナーになれるか、相手が「WAmazingの端末を置いてみたい」と感じていただけるかと考えていました。

答えはシンプルで、WAmazingの端末機を置くことが空港にとってのメリットになればいいんです。そのためには空港という事業を理解することが大切です。

 

――どのようにして相手のメリットを理解すればいいのでしょうか?

あくまで、私のやり方ですが、今の時代はネット検索すれば大抵の情報は出ているので、1日~2日かけて徹底的に机上で市場レポートやIR資料などの情報を調べれば、なんとなくですが業界の構造や利益の源泉や課題がわかり、その上で相手のメリットになりそうな提案を仮説ですが立てることができます。

そうしたら、それが正しいかどうかは、相手にぶつけてみないとわからないので、もう1日ほどで企画書を作って提案しに行きます。そうすると、提案に対して様々な反応が得られます。こうして同じ業界を2、3社回った頃にはその業界にかなり詳しくなれるんです。

WAmazingのケースをお話すると、空港を調べてわかったことは、空港は「ビジネスモデルの転換期」だということ。いくつかの空港のIR資料を見ると、元来の空港のビジネスモデルである飛行機の着陸料や停留料は比較的、横ばいなのに対して、伸びているのは空港に来るお客様向けのリテール小売事業だということがわかりました。

この情報を見て、私は「BtoB事業を維持しつつも、BtoC事業を今後伸ばそうとしているのかな」と理解しました。では、BtoC事業を始めるために何が求められるかというと、Cにリーチするためのマーケティングは必要不可欠ですよね。

そこからさらに何が空港のマーケティングにおいて不足しているかと考えたときに、「顧客情報」ではないかと考えました。

航空会社はパスポート情報も含めてお客様情報を掴んでいるからこそマイレージプログラムなどが充実していますが、空港はたとえ何万人が通過しようともどこの誰が通過しているのかは把握していません。入国出国の管理情報は国の仕事であって、民間の商売のための情報ではないためです。

つまり、WAmazingの端末機を置くことによって空港に来ているお客様の属性がわかったり、彼らにスマホを通じてリーチすることができれば、それは空港にとってメリットになるのではと仮説をたてました。

 

 

――極めてロジカルな導き方ですね。

はい。特殊なことでも、難しいことでもないので、数日つかって向き合えばできるのではないかと思っています。

WAmazingなら事前に「何月何日にこのお客様が空港に来る」という情報を持っているので、WAmazingの端末機を置いていただく代わりに、空港に来るお客様向けに我々がマーケティングをさせていただく、という提案をしたところ多くの空港で採用いただけるようになりました。

これはあらゆる提案において応用できますが、まずは相手をよく知ること。そして相手が欲しいと思っているものを提案することが、結果として自分たちの事業に周囲を巻き込んでいくポイントだと思っています。

 

 

>第6話「日本中を楽しみ尽くす、Amazingな人生に」に続く

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DIMENSION 編集長

DIMENSION 編集長

「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」をミッションに、真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場を支援する国内ベンチャーキャピタル。

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