日本のスタートアップに求められていること【DIMENSION conference 2020】第2話

「DIMENSION conference 2020 ~日本のスタートアップ・エコシステム最前線~」は、機関投資家、事業会社、ベンチャー投資家、起業家が一堂に会し、日本のスタートアップ・エコシステムについて意見を交わすDIMENSION主催の第1回目のカンファレンス。本稿では、当日の各セッションのエッセンスを2回にわたってお届けしている。 第2回は、早稲田大学大学院経営管理研究科 早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏、株式会社ミクシィ取締役会長の笠原健治氏、モデレーターを務めたDIMENSION代表取締役の宮宗孝光による基調講演を紹介する。

基調講演:日本のスタートアップに求められていること

宮宗:
本セッションでは入山先生、笠原さんに登壇いただき、「日本のスタートアップに求められていること」というテーマでお話していきたいと思います。

 

入山章栄/1972年生まれ
早稲田大学大学院、早稲田大学ビジネススクール教授。慶応義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカー・国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。13年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。19年より現職。

 

笠原健治/1975年生まれ
株式会社ミクシィ取締役会長。1997年11月求人情報サイト「Find Job !」を開始。東京大学在学中の1999年6月に有限会社イー・マーキュリー(現・ミクシィ)を設立。代表取締役就任。2004年2月、ソーシャル・ネットワーキング サービス「mixi」を開始。2006年2月、社名を「株式会社ミクシィ」と変更し、同年9月に東京証券取引所マザーズ市場に上場。 2013年6月、同社取締役会長就任。

 

宮宗 孝光/1974年東京生まれ
国内ベンチャー投資ファンドDIMENSION代表取締役。東京工業大学・大学院を卒業後(飛び級)、シャープ株式会社を経て2002年ドリームインキュベータ入社。大企業とベンチャーの戦略策定、幹部採用、M&A、提携などを推進。ベンチャー支援の実績として、4社の上場、5社の東証一部上場企業へのMBOに貢献。直近の投資・支援先は SHOWROOM五常・アンド・カンパニーAnyMind Group など。2006年から起業家との勉強会を主催。メンバー17名中、10名が上場。
 
 
 

Q1:事業立ち上げ時に押さえるべきポイントは?

笠原:
「時代の大きな変化を捉えること」。私はマーケットインから始めることもあれば、プロダクトアウト的に始めることもあるのですが、このポイントは変わらず意識しています。

やはり大きな変化が起きる瞬間こそ成長市場になりやすいですし、何かが生まれるチャンスがたくさん起こるのです。

宮宗:
例えばスマートフォンが出てくる、といったようなタイミングですね。

笠原:
今振り返ると学生時代に立ち上げた「Find Job!」(1997年)はインターネット創世記、「mixi」(2004年)はガラケーで常時接続できる環境が生まれた時期、「モンスターストライク」(2013年)はスマートフォン普及時というように、すべて「時代の変化」と共に躍進しました。

家族アルバム「みてね」(2015年)もおじいちゃん、おばあちゃん世代がスマートフォンを使い始める変化を捉えたからこそ、ここまでサービスを伸ばせたのかなと感じています。

入山:
笠原さんは結構ガジェットの変化を見ている感じなのでしょうか?

笠原:
そうですね。端末環境というのは分かりやすい変化としてあると思っています。

一方で、いま自律型会話ロボット「Romi(ロミィ)」という事業をやっていて、こちらはAI・ディープラーニングの技術進歩に合わせてプロダクトを発想した、技術ドリブンの事業になっています。

入山:
笠原さんって本当に凄いですよね。「みてね」も気づけばコロナという大きな変化に合わせて大ヒットしています。家族という単位のコミュニティに焦点を当てた超マイクロSNSですよね。

技術とは別に、社会のトレンドみたいなものもお考えになられるんですか?

笠原:
わかる部分とわからない部分があります。当然、コロナの時代になるなんてことはわからなかったので、社会的なトレンドは偶然な部分も多いですね。

宮宗:
逆にやらないことを決めていたりしますか?

笠原:
やるほうになりますが、一つ意識してるのは「ネットワーク外部性」があるかどうか。ユーザーが集まれば集まるほど、もしくはデータが集まれば集まるほど参入障壁が高まるかどうかです。

これを極めているのがGAFA。彼らはインターネット社会の“四隅”をしっかり抑えているからこそ世界的インフラになっていて強い。

自分たちも世界的インフラと言われるレベルまで到達できるネタをなんとかやりたいと思っています。

宮宗:
「時代の大きな変化を捉えること」「ネットワーク外部性」以外に意識されてることはありますか?

笠原:
シンプルなんですけれど「使い始める理由」と「使い続ける理由」が十分あるかどうかです。この理由が当てはまる対象人数が大きければ大きいほど良い。これは結構意識していますね。

家族アルバム「みてね」も使い始める理由が万人にあるのか、使い続ける理由を感じる人のボリュームが大きいか、というのを検証しながらやっています。

入山:
つまりは顧客側の視点に立って使う理由を検証されている。これってみんな意外とできてないんですよね。

宮宗:
成功する起業家は「検証数が異常に多い」と感じています。顧客の意見を聞くのでも5人と200人とでは、やはり200人の意見を検証する人の方が事業を伸ばす印象です。

 

Q2:日・米・中のスタートアップの違いは?

入山:
やっぱりポイントは「グローバル化」だと思います。今は国際化が非常にしやすい時代になってきています。

実は我々の研究分野でも「ボーン・グローバル」といって、創業後すぐにグローバル化するスタートアップが注目されています。例えばUberやAirbnb、日本でもユーザベースやメルカリなどが積極的に海外進出されてますよね。けれど、本気で世界を目指す企業がまだまだ少ないのが日本の現実ではないでしょうか。

時価総額はGAFA、そして中国勢が高く、日本勢は低いと言われて久しいですが、これは「対象マーケットが小さい」からです。

アメリカは3億人市場で、アメリカで勝つと世界で勝てるので20億人マーケットとも言えます。中国企業はグローバル化しなくとも13億人いる。インドは10億人、ヨーロッパは3億人ですがヨーロッパで勝つとラテンアメリカで勝てるから5億人とも言えます。

一方で日本の1億人は、30年前だと結構大きなマーケットでしたが、今となっては世界人口の1/70で非常に小さい。日本国内だけで勝負するとどうしても限界があるのです。

東南アジアのスタートアップは一つ一つの国で見ると小さいけれど、東南アジア全体を面で捉えています。そうすると6億5000万のマーケットになるわけです。

笠原さんのように、日本からもグローバルを狙うスタートアップがもっと出てきて欲しいなと思っています。

宮宗:
規模や言語、といった話も大きいですが、資本市場における“日本ルール”の特殊性も大きいですよね。

入山:
私が言うのもおこがましいのですが、ズバリ、東証マザーズの上場基準は緩いと思っています。売上10億円、時価総額200から300億円で上場できちゃいますよね。

アメリカは時価総額数千億円規模まで成長しないと上場しない。上場するのが非常に難しいので、Exit手段としてM&Aの比率が当然ながら高まります。

そうするとM&Aで会社を売却した起業家は、何年かのロックアップ期間を経て新しい会社を始めて次の事業を起こす。一方で、日本の起業家は上場するため辞めずに滞留してしまうのがエコシステム上の課題だと思っています。

宮宗:
笠原さんは「みてね」を展開される中で、海外の市場やサービスに対して感じられていることはありますか?

笠原:
やっていて思うのは、英語圏の方は結構ざっくりしているというか、特化型サービスがあんまり無いんですよね。

日本には家族内で子供の写真や動画をシェアするサービスが我々の他にも結構あるのですが、英語圏にはあまり無い。日本人の方が繊細に差を感じて特化型アプリを使いたがる一方で、英語圏の方はジェネラルなアプリでいいじゃん、と考える傾向があります。

ただ、実際にアプリを使ってみたユーザーの満足度は日本と英語圏で変わらないので、使ってもらえれば良さがわかってもらえるのかなとは思っています。価値を浸透していくのに時間がかかるなぁという印象がありますね。

入山:
昔よく言われてた「日本人のきめ細やかさ」みたいな良さがアプリの世界でも出てくるのかもしれませんね。

 

Q3:グローバル展開時の工夫は?

宮宗:
先ほどの話の延長ですが、グローバル展開において工夫すべき点があったらお聞かせください。

笠原:
入山先生も仰っていましたが、グローバル展開がすごく簡単になっているのは間違いないですね。「簡単」というと語弊があるんですけれど、アプリストアで世界中にサービスをリリースできて、サーバーもAWSやGoogleのクラウド、マーケティングもFacebookやInstagramなどを使うことができる。

逆に言うと、海外からも競合が入って来やすい時代なので、日本で勝っても後からグローバルの強いプレイヤーに負けてしまう可能性は大いにありえます。

入山:
グローバル化が容易になった理由に対する私の理解は、マーケット上での共通言語がほぼ絞られてきたからだと思っています。

はっきり言うと「英語」と「プログラミング言語」さえ使えれば、どこでも参入できる。あと強いて言うと「財務」ですが、これも世界中ほぼIFRSで同じです。

こう考えたときに、日本人の最大の弱点は「英語」です。私はアメリカに10年いたのでわかりますが、世界で一番普及している英語は非ネイティブの「へたくそ英語」(笑)。なので上手じゃなくてもいいから、英語を使うことに慣れるマインドが重要かなと思います。

もう一つマクロな視点で言うと、エコシステムのグローバル化が必要です。

インドや台湾、中国でスタートアップが盛り上がっているのは、国単体で盛り上がっているのではなくて、「シリコンバレーのエコシステムと人材が行き来している」ことによって盛り上がっているのです。

ビジネスにとって本当に重要な情報はネットには出てきません。エコシステム人脈内のインフォーマルな情報にこそ価値がある。そういった真に有益な情報を起業家や投資家、学者やエンジニアといった人材が母国に持ち帰ることでエコシステムが活性化されます。

その点で、日本はまだまだグローバル人材の厚みが足りないと思っています。

宮宗:
スタートアップもどんどん恐れずに外に出ていくべきですね。笠原さんはその点、いかがお考えですか?

笠原:
「みてね」に関して言うと、メンバーの中で海外に携わる人もしくは海外出身者は増えてきてますが、まだまだ少ないと思いますね。

入山:
それでもプロダクトが世界に受けているのが面白いですよね。

必ずしも外国人を組織に入れたから偉いというわけではありません。サービスやプロダクトのタイプによると思っています。プロダクトが強い会社の場合は日本人オンリーでも意外とグローバル化できるんです。

その代表例がコマツです。コマツは役員全員日本人ですが、プロダクトが圧倒的に強いから世界中で受け入れられています。一方でサービスやソリューション型の事業では、組織をグローバル化させたほうがよいでしょう。

笠原:
海外の価値観を受け入れすぎちゃうとプロダクト価値がぶれる危険性があるなと感じています。日本でウケている価値の部分をぶらさず、海外の人もいつかわかってくれるはずだという気持ちを持っていますね。

宮宗:
様々な情報をインプットしながらも取捨選択されているのが笠原さんらしいですね。

 

Q4:大きなビジネス創出に向け、スタートアップ以外の方々への期待は?

笠原:
昨今の米中競争など見ていると、スタートアップと政府が連携している。自国の産業や技術など、国家としての戦略をもとに守るところは国として守る、という意識を感じますよね。

私たち界隈で言うと政府の力を良くも悪くも受けていない、ある種自由にさせてもらっていますが、海外企業との競争という観点ではもっと入ってきてくれてもいいのかなと思ったりします。

入山:
大企業とスタートアップで30代くらいの人材を比較したときに、はっきり言うとスタートアップ人材の方が優秀です。それは「意思決定の回数」に起因すると思っています。

スタートアップは日々修羅場の連続じゃないですか。やばい意思決定を1日3回ぐらいしている。一方で大企業は素晴らしいリソースは持っているけれど、意思決定する機会がない。

宮宗:
早いタイミングで意思決定の場数を積むことが大事であると。

入山:
ビジネススクールで唯一教えられないのは「意思決定」です。

意思決定だけは意思決定をし続けないと能力が上がらない。笠原さんはこれまでにきっと死ぬほど意思決定されてきたからすごいわけで、これを座学で学ぼうとしても無理なんです。

意思決定の経験をするのは若ければ若いほどいいというのが私の理解です。

もう一点、違う観点でお話しすると、今笠原さんが取り組まれている「みてね」のようなサービスはスマホ上で完結するビジネスなんですけれど、これからはIoT、つまり既存の大企業がいる領域との連携が重要になってきます。

やっぱりものづくりといえば、いまだに日本とドイツが優れています。スタートアップと日本のものづくりメーカーがコラボしていくのは今後可能性があるのかなと思います。

宮宗:
ありがとうございます。では最後に本セッションのテーマについてお聞きして締めたいと思います。

 

Q5:日本のスタートアップに求められていること

入山:
私が日本に帰ってきたのが7年前ですが、7年前と比べて日本のスタートアップの質は非常に良くなっているし、素晴らしい起業家もいっぱい出てきている。

一方で、私が今NTTさんと一緒にやっているインドネシアやベトナムのスタートアップピッチコンテストを見ていると、正直言って日本は抜かれてるんじゃないかと思うほどレベルが上がっています。実際にインドネシアでもユニコーン企業が5、6社出てきています。

なので、日本のスタートアップももう一段上のステージであるグローバルへ挑戦してほしい、と思います。

グローバルを見ることで、日本発の良さも分かるのかなと思います。ものづくりやサービスのきめ細やかさといった日本人ならではのプロダクトを押し通していくと意外と受け入れられる。それをまさに体現されているのが笠原さんですよね。

是非日本の良さをいかしたスタートアップがたくさん出てきてくれると嬉しいですね。

笠原:
ミクシィもスタートアップだと思っているので、これはミクシィに求められることでもあるなと思っているのですが、入山さんと同様に「グローバル化」というところをやってきたいですね。

そして出来れば世界で使われるプラットフォーム、インフラサービスというのを目指したいし、日本の会社がこぞってそこを目指していけると、どこか出てくる可能性はあるのかなと思います。

 

 

 

DIMENSION conference 2020 ~日本のスタートアップ・エコシステム最前線第一話~

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