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機関投資家から見た国内VCファンドの最前線【DIMENSION conference 2020】第3話

「DIMENSION conference 2020 ~日本のスタートアップ・エコシステム最前線~」は、機関投資家、事業会社、ベンチャー投資家、起業家が一堂に会し、日本のスタートアップ・エコシステムについて意見を交わすDIMENSION主催の第1回目のカンファレンス。本稿では、当日の各セッションのエッセンスを全4話にわたってお届けする。 第3話は、日本生命保険相互会社金融投資部専門部長の大西かおる氏、独立行政法人中小企業基盤整備機構ファンド事業部ファンド事業課担当課長(審査・管理)の山岸玲子氏、モデレータを務めたDIMENSION株式会社Business Producerの下平将人によるSession1「機関投資家から見た国内VCファンドの最前線」を紹介する。

大西かおる(以下、大西)
日本生命保険相互会社金融投資部専門部長

 

山岸玲子(以下、山岸)
独立行政法人中小企業基盤整備機構 ファンド事業部ファンド事業課 担当課長(審査・管理)

  

下平 将人(以下、下平)/1986年生まれ
一橋大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業、グロービス経営大学院卒業経営学修士。弁護士として一般民事や企業法務を経験したのち、LINE株式会社の社内弁護士やチャットボット領域の新規事業開発担当を経て、DIに参画。国内1号ファンド「DIMENSION」を立ち上げる。人材紹介サービス「CAREEPOOL」のプロジェクトマネージャー。株式会社ペイミー社外取締役、株式会社ハッカズーク社外取締役。日本組織内弁護士協会理事。

 

下平:
まず背景をお話しすると、日米のスタートアップ投資規模は、日本が年間4000億円で、アメリカが14兆円ということで、依然として35倍の差がある言われています。要因として出資者の構成、いわゆる機関投資家といわれてる方々の割合が小さいことです。

参考までに国内機関投資家の皆さんが年間運用している総額は3300兆円とかなり大きな金額を運用されていまして、こちらが日本のVCにアロケーションされれば対GDP比率で北米に匹敵するリスクマネーを供給できるのではないかと考えられます。

そんな観点で今日は機関投資家であるお二人にお話を聞いていきたいと思います。そもそも「機関投資家って何?」という部分を簡単にご説明いただいてもよろしいでしょうか?

大西:
私たち生命保険会社も機関投資家の一種ですが、それ以外にも損害保険会社や銀行、政府系金融機関など、お客様から集めたお金を、ポートフォリオを組みながら大口投資家として安定運用していく投資家を「機関投資家」と呼びます。

ですので領域の専門性を持ったプロフェッショナルが様々なアセットに投資しており、投資規模は非常に大きいです。例えば我々は資産規模が約60兆円ですが、これよりも大きな規模の金額を運用されている機関投資家も存在します。

 

Q1:機関投資家から見たベンチャーキャピタル

下平:
国内のベンチャーキャピタルへの投資について、現状をどのように見られていますか?

大西:
私は機関投資家としてプライベート・エクイティやプライベート・デットという領域を担当しております。

プライベート・エクイティに関して言うと、日本生命は2003年頃からプライベート投資プログラムを立ち上げ、グローバルに拠点を置いて現地密着型でファンドマネージャーのセレクションをしています。現段階でコミットメント(出資の約束)も含めて約5000億円規模の運用をしています。全体の資産規模からすると1%程度です。

プライベート・エクイティは他のアセットに比べると流動性が低くリスクも高いため、大きな金額をやるというよりは、ポートフォリオ全体の中でのアロケーションを一定程度に抑えながら、良いマネージャーに投資することで高いリターンを目指す、というような運用をしています。

その5000億円の中で約15%がVCへの投資になっていますが、ほとんどがグローバルVCへの投資です。VC投資がプライベート・エクイティのポートフォリオ全体のパフォーマンスを牽引しており、いわゆる欧米の“Top-tier”ファンドを中心に投資してきた状況でございます。

現状では日本国内のVCへの投資は非常に限定的になっています。

下平:
5000億円の15%というとVC投資が700憶円ぐらいかなと思うのですが、その中で日本VCへの比率はどれくらいなのでしょうか?

大西:
数%あるかないか、ぐらいの規模かもしれないですね。8割が北米、残りが欧州アジアという形になっています。

下平:
そこまで差が大きい理由はどの辺にあるのでしょうか?

大西:
このプライベート・エクイティの中でもVCへの投資は非常に再現性が高い領域だと考えています。すごく高いパフォーマンスを上げたファンドマネージャーは次も同じように高いパフォーマンスを上げる蓋然性が高いと言われています。

そういった良いリターンを生み出し続けるマネージャーのほとんどが北米、そして欧州の一部に存在しており、実績ベースで投資を積み上げてきた結果、このような配分になってきたという形です。

下平:
なるほど。あくまで資産運用として利回りが期待できる実績を持った先に投資をしてきた結果というわけですね。一方で山岸さんは国の資金を国内VCファンドに供給されるという立場です。

山岸:
はい、私たちは政策的な投資ということで、1999年3月からベンチャーファンドに投資し始めましたが、この数年で他社様の国内ベンチャーファンドへの純投資が活発になってきたなと感じています。

要因は大きく2つあって、1つは実績が積み重なってきたことで投資判断できるようになってきたこと。もう1つはベンチャーの増資による調達額が、数億円単位でなく10億20億と大きくなってきていて、必然的にファンド規模もそれなりに大きくなってきたということが挙げられます。先ほどのお話にもありましたとおり、機関投資家は大きな額の運用をされているので、10億円単位ですとか、まとまった金額を出資される一方で、1つのファンドへの出資割合がそれほど大きくならないようにいうことも気をつけているので、ファンド規模がある程度大きくないと現実的に投資対象になりにくいのです。

北米との差ということで言うと、要因の一つとしてやっぱり起業家が尊敬される存在であるといった文化的なエコシステムが結構大きいのかなと思っています。

その点で、日本もようやく投資家も含めたエコシステム、大企業によるオープンイノベーションなどの厚みが出てきたタイミングなのかなと感じています。起業してもみんなびっくりしないですし、大企業からスタートアップに転職することも当たり前になってきましたよね。

すぐに投資資金が何倍にもなる世界ではないのですが、非常に期待が持てる動きが出てきてるんじゃないかなと思ってるところです。

下平:
コロナで世の中が大きく変わる中で、今後の投資方針への変化はありますか?

大西:
一貫して変わらないのは分散投資、つまり地域分散や時間分散、戦略分散という部分です。

先ほどVC投資が15%とお話しましたが、VC投資は他と比べるとどうしてもハイリスクハイリターンな特性があります。ゆえに、ポートフォリオの中でVC投資のリスクをバイアウトや別戦略で補いながら安定的なパフォーマンスを出していくのが重要だと考えています。

とはいえコロナの影響は多少なりあると思っておりまして、例えば我々がSDGs的な観点をより重視したライフサイエンス領域への投資を進めているといったことが挙げられますが、アフターコロナの観点で投資アロケーションが変わる部分や強化する部分は出てくるかなと思います。

下平:
山岸さんはいかがでしょうか?

山岸:
国としてのスタンスは変わりません。政策的にも、こういう時であればあるほどファンド出資を積極的にやっていかなければいけないと思っています。

中小機構のファンド出資事業は民間資金の呼び水効果も政策目的としており、現状はファンド総額の3から4割程度しか出資しておりませんので、裏を返せば民間資金が集まらなければファンドレイズが難しいという形ではありますが、民間資金も足下はそこまで影響は無いのかなと感じています。

 

Q2:国内VCファンドマネージャーへの提言

山岸:
オルタナティブ投資の中でもプライベート・エクイティ(PE)ファンドへの投資に資産配分している機関投資家はまだまだ少ないので、株式のインデックスと比べたらこう、と言うような指標を整備してPEファンドの特性を理解していただくことが重要なのかなと思います。

その点、日本ベンチャーキャピタル協会さんなどが強力に進めていらっしゃるので非常に頼もしく思っておりまして、業界の皆さんと一丸となって進めていただけるといいかなと思っています。

下平:
ありがとうございます。大西さんはいかがでしょうか?

大西:
我々がファンドを見させていただくときに、当然トラックレコードやパフォーマンス、戦略や組織もファンドの良し悪しを評価する要素にはなるのですが、オペレーションデューデリジェンスを通じてガバナンス体制などのチェックも行なっています。パフォーマンスと同じくらい、オペレーション面がしっかりされているかを重要なポイントとして見ています。

特に日本のVCさんの多くは歴史が長いわけではありません。意思決定のされ方や送金時の牽制体制、一件当たりの投資額ガイドラインの整備などができていないと、どうしても出資する際に不安要素として判断されてしまいます。

グローバルスタンダードでオペレーション面がしっかり整備できていることが重要だと考えています。

下平:
ちなみにトラックレコードの部分では、どのような評価基準があるのでしょうか?

大西:
通常の平均リターンより高いリターンを求めるというのは大前提としてあります。その上で再現性という部分で、誰がどの案件をリードして、どういう風に付加価値をつけてイグジットしたのか、そのノウハウがしっかり残っているのか、といったような視点を中心に評価させて頂いています。

あとはガバナンス面でグローバルスタンダードになっていくようなファンドさんを選ぶにあたっては、今だけの判断というよりは数年間続けてコミュニケーションを取らせていただく中で、どういう風に改善し、どういうトラックを生み出されていくのかを見させていただき、確信が持てるタイミングで投資させていただいています。ですので非常に長い期間のお付き合いを経て判断をするケースも多いのかなと思います。

下平:
ガバナンスやオペレーション面で、日本のVCが気をつけるべきポイントがあればお聞かせください。

大西:
人数がすごく少ないファンドさんが多いという印象がありますが、フロントとして投資を意思決定する機能と、ミドルバックオフィスの牽制機能は体制として分けるというのが一番重要かなと思います。

あとは管理する資金をパラレルファンドや運用者自身の資金と混在することなく、しっかり厳格に管理するのも最低限ではありますが重要です。

 

Q3:機関投資家として、国内VCへのメッセージ

山岸:
私の立場で国の政策について述べることは難しいのですが、大きな考えとしては2つあるのかなと思います。

政府系の投資家でも産業革新投資機構(JIC)は時限の組織ですので、JICが出資することによって、ファンドを運営するキャピタル様に機関投資家の出資に耐えうるような運営体制を構築していただくことで、後継ファンドへの機関投資家の方々からの投資の呼び水になるような役割を果たしたいと思われているように聞いております。

一方で私共、中小機構のファンド出資制度は時限のある制度ではありませんので、コンスタントに一定金額を出し続けることで下支えになっていけるといいなと思っています。

もう1つが民間との連携。ファンドを運営していただくGPさんはもちろんのこと、民間のLPさんとも一緒に色々と連携していきたいなと思っているところです。

下平:
大西さんもお願いいたします。

大西:
1つめは先ほどもお話ししたガバナンスや運営体制面のレベルアップを進めていただきたいということ。

2つめが、トラックレコード。

鶏が先か卵が先か、みたいな議論になってしまうのですけれども、日本のVCがなかなか機関投資家から資金を集められていない理由にトラックレコードが積めていないという部分があると思います。

今後もしっかり実績を積んでいただく流れを作っていただければ、我々のような機関投資家も安心して出資できる流れになってくると思います。

色々なファンド運用者さんと会わせていただくと、10年前と比べると非常に人材の層が厚く、優秀な方々が増えているのが印象的です。我々も投資家として盛り上げていきたいなという風に思っているところです。

山岸:
このようなセッションがあるということ自体が非常に心強いことです。

私は2002年からこの仕事をやっていますが、こういう日が来るとは思いもしませんでした。機関投資家の方がベンチャー投資業界に入ってきてくださったこともそうですし、起業を目指す方に対する支援の層も厚くなった。

このような機会をいただきまして非常にありがたいなと思っております。引き続きよろしくお願いいたします。

 

 

 

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